■登場人物
■あらすじ
出生の事こそ分かったが、未だ体の部分が持ちえた記憶に思いを馳せるカインは、旅の思い出を胸に抱えつつも上の空の日々が続いた。
そんな時、深海内で沈没船が見つかったという知らせが入る。
あんな所で見つかるなんて本当に太古の昔の物だろうとノクティルカは言う。
船と聞いて動揺したカインだったが「もう沈んでる船なら乗るとはちょっと違うし〜、カイン大丈夫かもよ〜?」というマーシーの一声で共に調査へ向かう事になる。
そうしてたどり着いた船を目の前にして、カインは息を飲んだ。
「僕は、僕の体は。この船を知っています」
残された跡を巡り、彼らが見つけた物語とは。
■会話の記録
「カインの体の方って言うと長いし、ひとまずアインと呼ぼうか。どうかな?」
「缶の中にリボンがたくさん詰まってたけど〜、これカインのそれと一緒だね?どしてかな」
「これは……記憶?僕じゃない、アインの……嵐、が……?」
「錨の朽ち方だけおかしいね。ここで劣化する以前の問題の様に見えるよ」
「おそらくだけど、たぶんこの船は一度しか出航した事が無いと思う」
えんでぃんぐ
アインは正確には船乗りではない。
船員見習いだった。
見習いの仕事の一つに、出航の日まで船の見張りがあることが分かった。そしてそれは交代で行われていた。
天候の記録を見るに、おそらく出港前の夜にはとてつもなく大きな嵐が港を襲ったことだろう。
嵐の中で彼は見張りのために一人船の中にいた。
形跡から見て、イカリの内部には腐敗があった。それに耐えきれず崩壊した結果、船はそのまま大きな波に攫われてしまう。
アインはなんとか舵を取ろうとしたのだろうが、おそらくそれも叶わなかったのだろう。
ついぞ彼は船乗りになる夢を叶える事は無く、そのまま船と共に暗い海の底へ。
「……全部推測だけど」
「でも僕の記憶と、思い出せたこと、そしてここに残る物の跡を照らし合わせれば、妥当だと思います」
船を探索する中で見つけた物と、カインが所々思い出した記憶から見えてきたこと。
胸にそっと手を当てて辿り着いた、一つの想い。
「貴方は、貴方は船が怖いというわけではなかったのですね」
カインは今まで自分の体が船に恐怖を抱いていると思っていたが、それは少し違っていた。
もちろん恐怖もあっただろうが、しかし船を守る事が出来なかったという自責の念が遥かに強かったのだという事に気付く。
その想いが、船に乗る事を拒否していたのだった。
「僕がこの形で生まれたのは、きっとこの体に出会うためだったのかもしれません」
「どうしてそう思うんだい?」
「だって僕は、祈祷師ですから」
そう言ってカインは、警備隊の皆に祈りの手伝いをして欲しいのだと頼んだ。
「たとえ僕が遺伝子を元に作られた存在でも、祈祷師であった頃の心は確かに僕の中にあります。だからこそ、祈りましょう。祈りましょう」
ノクティルカが掲げてくれた光の元、警備隊の皆はカインに合わせ目を閉じる。
アインと、そしてここで眠り続けていた船を想い、祈りを静かに捧げたのであった。
帰路の道中、「色々分かったことだし〜、これでもう船にも乗れちゃうねぇ〜」とマーシーがのんびりと言う。
「マーシー、そんなに単純な話じゃないでしょ」
「えーー」
「……でも言われてみれば、そうですね。マーシーの言う通りかもしれません。時間はかかるかもしれませんが」
何故なら船を守ろうとした事も、船を見つける事が出来たのも。祈り捧げたそれも。
全ては彼自身なのなのだから。
きっとカヘルアインが船に乗る日も、そう遠くはないだろう。